TALK

Mummy-D (RHYMESTER) × 小出祐介 (Base Ball Bear) 対談

Mummy-D (RHYMESTER) ×小出祐介 (Base Ball Bear) 対談

この対談は、昨年12月29日に下北沢GARAGEにて開催されたイベント「Q2 concert EXTRA〜NEW YEAR FROM HERE〜」の中で行われたものである。小出祐介は10代のころからひとりのリスナーとしてRHYMESTERを敬愛し、Mummy-DもまたBase Ball Bearの楽曲に客演した「The Cut -feat.RHYMESTER-」の制作を通じて、小出と濃密なコミュニケーションを交わした。 
音楽に注ぐクリエイティビティにおいて相思相愛の関係ともいえる2人の貴重なクロストークをここに蔵出しする。

インタビュー=三宅正一 構成=笠原瑛里

1 2 3

――DさんがGARAGEにいるのやばいね、こいちゃん。

小出祐介:いや相当変な感じですよ。さっきもDさんが、「そもそもGARAGEってどういうところなの?」と。

Mummy-D:俺らは26年も活動してるから、相当いろんなところでライブやってるはずなんだけど、GARAGEには来たことなかったんだよね。

小出:いやだって、そういうハコじゃないですもん。

――Dさん的にはクラブとライブハウスの居心地って違うと思うんですけど。Dさん的にライブハウスってどういうニュアンスなのかなって。

Mummy-D:どっちかっていうとね、RHYMESTERってヒップホップグループではあるんだけど、けっこうバンドっぽいライブのやり方をしてるんだよね。だからいわゆるクラブ的なところでDJブースの中に入って、ちょっとだけ歌ってみるというよりは、ライブハウスみたいにお客さんにちゃんと見えるステージがあって、ある程度ステージングできて、音響的にも整っている環境がある方が昔からやりやすい。今もツアーで地方を回ったら、ライブハウスセットをちゃんと組んで、これくらいのキャパのところでやってるからね。

――ライブハウスでライブをやるということもRHYMESTER的に違和感がないということですか?

Mummy-D:クラブは客がみんな酔ってるんだもん(笑)。クラブでライブばかりやっている時は気づかなかったんだけどね。

――Dさんはヒップホップのファイティングポーズのあり方を本当に広げたと思うんですよね。客演でポピュラーミュージックのフィールドからコアなフィールドまで出ていって、どれも絶対に無粋ものにしない。

小出:そうですね。

Mummy-D:まぁ、DAOKOEXILEとやったのは俺だけだろうね。

小出DAOKOさんとの曲もめっちゃよかったですね。

――っていう流れで、今日のトークの本題を始めようと思うんですけど。小出くんは、Dさんのことを音楽的にすごくリスペクトしてるじゃないですか。もちろん宇多丸さんに対してもそうなんですけど、また別のベクトルで敬意を抱いていることがすごく伝わってくる。そういうところを語ってもらえたらと思うんですけど。

小出:本当にね、尊敬してますよ。で、先月くらいに、AAASKY-HIこと日高(光啓)くんがDJをやっているラジオ番組に出たんですけど、若手のラッパーやラップを始めたばかりの人は、みんな一度はMummy-Dになる現象があると。

Mummy-D:本当?(笑)。

小出:そうそう。そういう話を日高くんとして。ああなるほどって思ったんです。

――それってフロウにおいてMummy-D節を一回は通るということなんですかね?

小出:そうそう。要は誰もが通る道として、90年代のRHYMESTERにおけるDさんのフロウがあると。今はそこからDさん自身が離れていってるけどっていう。

Mummy-D:あ、そうなんだ?(笑)。

小出:らしいですよ。日高くん的には。

Mummy-D:俺は自分のことが一番よくわかんない(笑)。

小出:一つの型として、90年代のDさんのフロウを一回通るんですって。で、一回Mummy-Dを模倣して、そこからどうやってMummy-Dから離れていくかがカギを握ると。で、Mummy-Dスタイルを模倣したまま終わっちゃう人もたくさんいると。

Mummy-DDまで行かない()

――Mummy-ABで終わるみたいな(笑)。

小出:行ってもCかっていう(笑)。

――その話、Dさん的にはどうですか?

Mummy-DEまでは行ってほしくないよね(笑)。

小出:行き過ぎちゃうからね(笑)。

――()。でもDさん、真面目な話、ご自身のフロウやビートに対するアプローチをお手本にされるというのはどうなんですか?

Mummy-D:もちろんやっぱ嬉しいよね。自分が20代にやったことというのは、日本人が日本語でラップして、「あいつは日本人離れしてるよな」とか、そういうかっこよさじゃなくて、日本人として日本語でラップしてかっこよく聴こえて、日本語なんだけどちゃんとリズムキープできてるというドベーシックを作った自負もある。もちろん、それを確立したのは俺一人だけではない。宇多さんもそうだし、キングキドラとかもそう。その前にはいとうせいこうさんとかもいてね。そういう流れがあって、日本語でラップするベーシックなスタイルができたと思うのね。逆に言ったら、次世代のラッパーは、日本語でラップしながら英語っぽく響かせる人が多いわけ。それは英語に逃げてるという考え方もあるんだけど、日本におけるロックの歴史がそうであるように、前の世代を打ち負かして次の新しいスタイルを作るというスタイルウォーズの話でもあるから。だから、次世代は前世代のスタイルを否定しないとダメなの。そういうことも踏まえて、俺のように日本語としてよく聴こえるラップのスタイルを今の若い子たちが踏襲すると、たぶん「RHYMESTERっぽいじゃん」って言われちゃうという話だと思うんだ。

――Dさん、そこでひとつ聴いていいですか? 日本語を英語っぽく聴かせるフロウとしての歌唱法を提示するポップスという意味で、桑田佳祐さんってすごく大きな存在だと思うんですけど。Dさんが桑田さんをどう思っているのかすごく知りたいんですけど。

Mummy-D:えっ、俺の桑田佳祐論()

――もしよろしければ(笑)。

Mummy-D:さっき、最近の若いラッパーたちは英語を主体にラップする、もしくは日本語を英語のように響かそうとしているという話をしたけど。それは、日本語の上げ下げを無視してやってるわけ。それがフレッシュなのね。たとえば「ツクエ」とか「イス」みたいに、日本語って最初が低くて2番目が高くなる単語が一番多いの。それを歌唱において崩したら違和感を覚えるリスナーもいっぱいいるわけ。でも、日本語の発音を崩して英語っぽく聴かせようとしておもしろいインパクトを与えている新しい世代のラッパーがいて、その元を辿れば、桑田さんの歌唱における発音も相当影響力を持ってると思うのね。「勝手にシンドバッド」とかも英語っぽい響きの日本語で歌っていて、それがポップミュージックの響きとして新しかったから、それを大衆が受け入れたんだろうなぁっていう感じがするわけ。だから英語っぽく響かせようとしてる子たちを簡単に否定できないと思っていて。そのアプローチが音楽的に面白かったら、それも正解だから。俺の立場に置き換えても、若い時の刷り込みに近いものがあるから、意図しなくても桑田さんや(忌野)清志郎さんの日本語を崩したかっこいい歌唱の影響はどこかで受けてると思うしね。

1 2 3
 イベント情報